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子供の足では小走りをしないと気持ちに追いつかない。がんばれ、ポストまであと少し。ずっしりと重い日曜日の新聞に、目指すモノがちらりと見える。テカテカのコート紙だからすぐわかるのだ。間取り幼児・徹のめざすモノ、それは一戸建てやマンションの広告だった。
秀麗なフォントに彩られたピカピカの建物! 家族団らんの写真! そのようなものに心躍らせていました…と言うとわかりやすいのだが、「せまっ」「住みにくそうやな…」「収納足りないやん」それが、幼い少年の胃の少し上あたりをツーンと突き動かすエネルギーとなっていたのだから、我が事ながら面白い。しかし、これも一つの愛の形。少年は小学校入学の日の将来なにになるのかの問いに、ちゃんと「大工さん」と答えている。それが証拠だ。
そんな少年は、今、大阪からはるか1,400キロの宮古島で潮風を受け、お客様の選んだ土地に立っている。あの情熱を形にして、だれかを喜ばせる手段を手に入れ、真っ白なキャンバスに一本の線を引くことに脅威と甘やかな胃痛を感じながら。もちろん、幼少の自分につっこみを入れられないように細心の注意も払っている。
ここ数年、世界の名建築を巡るツアーに参加し、ミース、コルビジェ、ライト、ルイスカーンと、名だたる建築家たちの作品を、その情熱と共に五感で吸い込んできた。最近では、スリランカに赴き、ジェフリー・バワの圧倒的な世界観に身を投じてきた。体中を引き出しにして臨んだ旅は、スリランカと似た気候を持つ沖縄で必ず生かしてやろうと思っている。
なんてすばらしい仕事だ!
頑丈なフレームに好きな形の空間をぶら下げればそれが住まいになる。そんな未来には、建築士とそうでない人との境界は曖昧になるかもしれない。そのような中で、唯一無二のラインをキャンバスに引くことができるか。それが私達建築士に求められる資質なのだ。
《沖縄建設新聞掲載コラムより》